枇谷玲子の北欧コラム①ーあいみょんさんの歌詞と北欧の子どもの本を参考に考える、今の日本の女の子達の夢

   

今の女の子はどんな将来の夢を描いている?

 

 

今、日本の特に10代、20代の女の子の間で、あいみょんさんというアーティストが人気だそうだ。

「決められた将来があるなんて窮屈してるなあ」

 

あいみょんさんの『泥だんごの天才いたよね』の歌詞は、ストレートで鮮烈だ。

 

「決められた将来があるなんて 窮屈してるなあ(中略)

若いうちに教えてあげられること伝えてほしい(中略)

戦争の話をしてあげよう 地震の話をしてあげよう
お金の話をしてあげよう 人生の話をしてあげよう

何も知らずに誰かを傷つけて塞ぎこむ子が減るように」

 

彼女の曲の歌詞を聴いていると、現代の日本の若者の姿がリアルに伝わってきて、激しく心が揺り動かされる。

 

最低限の生活を送るのもままならない大人達

あいみょんさんの『憧れてきたんだ』という曲の歌詞にも、ドキリとさせられる。
「私の知ってるシンガーソングライター 数年前にメジャーを辞めた

歌うこと歌うこと まだ続けていてくれよ お願いだ(中略)

憧れて 憧れて 憧れてきたんだ

あなた達が奏でた音で あなた達が魅せた芸術で 私は変わったんだ」

 

若者は大人が活躍する姿を見て、自分もこうなりたいと夢を描くものだ。大人が幸せでないと、若い世代は希望を持てない。

 

こういう窮屈な思いをし、将来に不安を感じているのはあいみょんさんだけではないのだろう。

 

内閣府のHPによると、「あなたは、自分の将来について明るい希望を持っていますか。」との問いに対し、「希望がある」「どちらかといえば希望がある」と答えた人の合計がスウェーデンが90.8%だったのに対し、日本は61.6%と極めて低く、日本の若者は諸外国と比べ、自分の将来に明るい希望を持っていないことが分かった。

 

若い世代のジェンダー観~過渡期に生きるジレンマ~

 

『貴方解剖純愛歌 』であいみょんさんは恋愛や性への能動性を感じさせる歌詞を綴っている。

「あなたの両腕を切り落として 私の腰に巻き付ければ

あなたはもう二度と 他の女を抱けないわ(中略)

逃がさないよ 離さないよ

私だけのあなたになるの 今すぐ部屋においで(中略)

ねえ? 私はどこかおかしいですか

好きすぎて あなたが欲しすぎて

ねえ? どうしてそばに来てくれないの

死ね。私を好きじゃないのならば」

 

本当の自分を隠し続けるマトリョーシカみたいな女の子

 

しかし大人の男性達は、このような能動的な女性を1人の対等な人間として捉え、対話し、愛することをしてきたのだろうか? 今の若い男性はどうだろう?

 

『マトリョーシカ』であいみょんさんは、こう歌う。

 

「あいつの全てを知り尽くし 尻に敷いてしまいたいわ(中略)

近いうちに愛されるから私、私 キラキラに光る何かを追いかけて

私はそれでも愛されなくて 本当の自分を隠し続けている

私はいつでもマトリョーシカ」

 

どうしてあいみょんさんは本当の自分を隠し続けていると感じているのだろう? なぜあいみょんさんの歌にたくさんの若い女の子達が共感しているのだろう?

男らしさ、女らしさって?

 

私が最近訳した男女平等先進国スウェーデンの児童書、『北欧に学ぶ小さなフェミニストの本』(サッサ・ブーレグレーン・作、枇谷玲子・訳、岩崎書店)を使って、考えていきたい。この本では10歳のスウェーデンの女の子エッバが、友だちとフェミ・クラブというグループを作る様が描かれている。その中で、エッバ達はこんな風に話し合う。

 

©︎iwasaki publishing co. ltd

 

「女の子は、傷つきやすいて、か弱いと思われる。おしゃれや男の子にしか興味がないとも」

「男はどんな時も強く、たくましくなきゃならないと思われている」

「どうして自然な姿でいちゃいけないんだろう? 太りすぎていても、やせすぎてもいけない」

「自分が好きな服を着るのも、許されていない気がするわ。まるでどうあるべきか、ほかのだれかにいつも決められているみたい」

「音楽のプロモーション・ビデオも、どうかしているわよね。女の子がみんなでつっ立って、なよなよしたポーズをとって、バカみたい!」

「男だって、ポーズをとるじゃないか! 男らしいポーズを」「広告に出てくるような女の子、どこにもいないよね」

 

どうやらあいみょんさんや今の日本の若い女の子達に近いジレンマを、スウェーデンの女の子達も感じているようだ。

 

どうして痩せていて、おしゃれでかわいくなくちゃいけないとプレッシャーを感じるのか?

©︎iwasaki publishing co. ltd

本の中で主人公のエッバは年上のいとこヨリンダに電話をして、どうしてどんな見た目でいるべきか、どんな服を着たらいいかとか、いつもほかの人からどう思われているか考えなくちゃいけないみたいに思えるのか、と尋ねた。するとヨリンダはこう答えた。

「わたしたちに自信を持たせないことで、お金もうけできる人がいる。

服やコスメを売ったり、ダイエットのアドバイスをしたりする人たち。・・・それに整形手術をするお医者さん。そういう人たちはわたしたちに不安を感じさせることでお金をかせいでいるの」

 

ありのままでいよう。ほかの人も、自由にさせてあげよう

 

エッバはグループの皆とこう決めた。

「まわりの期待に応えることばかり、考えちゃいけない。他人からどう思われるのかばかり、気にしない。ありのままでいよう。弱かろうと、強かろうと、図太かろうと、おく病であろうと、うるさかろうと、おこりっぽくあろうと、別に構わない。自分の気持ちに正直になろう。そして、したい格好をしよう。それにほかの人も、自由にさせてあげるんだ」

夢はお嫁さん?

 

あいみょんさんが友人のために作ったという『○○ちゃん』という曲の歌詞にはこうある。

「私のどこがダメですか?

可愛くなる努力は医者に頼っちゃったけど

将来の夢はお嫁さん 誰か叶えてね(中略)

私のどこがダメですか? 料理だって人並みにできるのに(中略)

得意なことも趣味もない おまけに勉強もできないけど

私は立派な女なの 愛し愛されることを夢見るの」

 

女の子は3歩下がって男性についていかなくてはならない?

あいみょんさんの歌詞を見ていると、『北欧に学ぶ小さなフェミニストの本』で200年前、イギリスで女の子は大人しく、温和で、3歩下がって男性についていくような、ひかえ目な女性になるように考えられていたことに怒り、女の子も、快活で、自分の特技を生かし、生きていけるようになればと願い『女性の権利の擁護』を著したメアリー・ウルストンクラフトのことが思い出される。

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スウェーデンでも夫が妻をなぐることが許されていた時代があった

 

あいみょんさんの作品には『幸せになりたい』という暴力受けている女の人の歌もある。

 

『北欧に学ぶ小さなフェミニストの本』には、18世紀のスウェーデンで夫の命令に妻が従わなくてはならないとされ、時に夫が妻をなぐることさえも許されたと書かれている。

主婦が当たり前だった時代

 

今ではスウェーデンでは女性も働くのが当たり前だが、この本の中ではエッバのおばあちゃんが小さいころは、お母さんが主婦なのが普通で、母親が働きたいと言ったら、普通じゃないと思われたり、子どもを持つべきじゃなかったのでは、と言われてしまったりしたと書かれている。
しかし特に70年代、スウェーデンのフェミニスト達が声をあげたことで、社会は変わっていった。

 

意識を変えるには時間が変わる

 

本の中で男女差別を撤廃する法律を定めるだけでなく、人々の意識を変えることが必要だが、何千年も男性が女性に対して決定権を持ってきたのを変えるには時間がかかると書かれている。

 

かわいらしいガールズ・ポップ・バンド

同書にはまたかわいらしいポップ・バンドで歌いたいガールズ・バンドで活躍するより、ハードロックのバンドで格好よく歌ってみたい女の子の方が、夢をかなえるのに努力が必要だとも書かれている。社会の因習を変えるため、子ども達が性別を理由に夢をあきらめなくて済むように、全世代の男女がたたかわなくてはならない、とも。

 

わたしはわたし、ぼくは、ぼく。そのままの自分でいさせて

 

本の最後には、エッバは他の子ども達と3月8日の国際女性デーにこういうスローガンをとなえながら、町を練り歩く姿が描かれている。

「わたしはわたし、ぼくはぼく。そのままの自分でいさせて」

 

そうだ、他人の生き方に口を出すのはもうやめよう。自分が自分らしくいたいのなら、他の人も自由にさせてあげよう。そしたら、若い人達が、そして全ての世代が生きやすい社会になるだろう。

それにはきっと時間がかかる。そのジレンマの期間、あいみょんさんのようなアーティストが、その鋭い感性で、女の子の気持ちを代弁し続けるのだろう。ショーペンハウアーは人間が心地よく感じるのは、芸術や音楽に触れるときだけだと考えたそうだ。よい本、すばらしい芸術作品、そしてなにより素敵な音楽は、心配事を忘れさせてくれる、と。彼女の歌詞、音楽の力は女の子達を癒やし続けるのだ。

©︎iwasaki publishing co. ltd

 

枇谷玲子 (北欧語翻訳者)

1980年、富山県生まれ。2003年、デンマーク教育大学児童文学センターに留学。2005年、大阪外国語大学(現大阪大学) 卒業。 在学中の2005年に『ウッラの小さな抵抗』で翻訳者デビュー。北欧家具輸入販売会社勤務、翻訳会社でオンサイトのチェッカーの経験を経て、現在は子育てしながら北欧書籍の紹介を行っている。訳書に2015年東京都美術館で行われた展示『キュッパのびじゅつかん』の元となった絵本『キュッパのはくぶつかん』(福音館書店)、『カンヴァスの向こう側』(評論社)など。埼玉県在住。

 

 

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