お父さんのための北欧絵本②ー『トーラとパパの夏休み』スウェーデン

『トーラとパパの夏休み』( リーサ・モローニ:文、エヴァ・エリクソン:絵、菱木 晃子:訳)

【あらすじ】

いつもパソコンやスマホをいじってばかりのパパにトーラはため息。「ああ、ほんとうに、つまらないパパ!」夏休み、トーラはパパと森にキャンプに行きます。ながい首をのばして、たかいところの葉っぱを食べるキリンのむれみたいに見える森のシラカバの木も、森でもスマホばかり見ているパパの目には入りません。まちぶせしているライオンも、ひるねをしているカバも、トロルみたいな切り株も。うんざりしていると、小川にワニがいました。トーラはワニをぴょんと飛び越えます。でもパパはワニに足をかみつかれそうになってしまいます。トーラは枝でワニを追い払いました。やがて2人は湖のほとりにテントを張りました。スマホを見るのをやめたパパは、湖にいるドラゴンの話をしてくれました。寝る前、トーラとパパは森の生きもの達におやすみのあいさつをします。「おやすみ、キリンとライオンとカバ」そして最後にトーラはこう言います。「おやすみ、パパ! せかいで、いちばん、たのしいパパ!」

 

【翻訳者からお父さんたちへ】

 テレビが普及しはじめた当時は、テレビに子守りをさせないで、という警鐘が鳴らされたようですが、現在、頻繁に問題視されているのはスマホ育児です。これを題材にした絵本『ママのスマホになりたい』(のぶみ:作)も話題になりました。レビューを見てみると、反省しました、泣けました、という声もあれば、母親はすでにこんなに頑張って育児をしているのに、どうして多くを求めるの、と憤る声もあるようです。私もスマホ育児については反省するところがありますし、絵本は今回の作品のように、子どもの声を世の中に届ける役割をも負うべきとは思いつつも、前述の絵本については、後者の意見よりで、「どうしてママばかり批判するの?」と悲しくなります。むしろ日本の男性の家事、育児参加時間の短さ家庭における父親の不在、それを引き起こす社会の構造に目を向けるべきではないか、とも考えています。 

 先日、私と息子が所属する子育てサークルに、地域の読み聞かせボランティアの方が絵本の読み聞かせをしに来てくれました。ボランティアの方が、「今時のママはスマホ育児っていうのをついしてしまう人もいるみたいだけど、今がとっても幸せな時だから、お子さんの目を見て、一杯話しかけてあげてね」とおっしゃっているのを聞き、マスコミの言説をそのまま素直に悪意なく、毎日、ワンオペに近い育児をしているママ達に投げかけてしまう人がいるんだなぁ、と危機感を覚えました。(参考:NHKスペシャル『ママたちが非常事態!?

 

今回の絵本では、スマホ育児をしているのはパパ。男女両方が育児の責任を負うスウェーデンらしい絵本です。女の子の素直で飾らない言葉と、空想の力で、こんなにもすがすがしく「もっと子どもを見つめて」というメッセージを、男性と女性の両方にさりげなく発信できるのか、と驚かされます。私達がジェンダーの面で公正な表現を模索する上で、参考にできる良書です。この本は2014年公益社団法人全国学校図書館協議会の夏休みの本(緑陰図書)に選定されるなど、日本でも多くの人達に親しまれています。

育児中、スマホに頼りたくなるのは主に子どもが病気になった時でしょう。ただスマホの情報はどれを信じていいか判断が難しく、延々とネットサーフィンし続けなくてはならないことも。そんなママ、パパにこの本をオススメします。『小児科へ行く前に―子どもの症状の見分け方』(ジョン ガーウッド 、アマンダ ベネット ・著、青木 玲・翻訳、山田 真・監修、ジャパンマシニスト社)不安が吹き飛びます。

枇谷玲子 (北欧語翻訳者)

1980年、富山県生まれ。2003年、デンマーク教育大学児童文学センターに留学。2005年、大阪外国語大学(現大阪大学) 卒業。 在学中の2005年に『ウッラの小さな抵抗』で翻訳者デビュー。北欧家具輸入販売会社勤務、翻訳会社でオンサイトのチェッカーの経験を経て、現在は子育てしながら北欧書籍の紹介を行っている。訳書に2015年東京都美術館で行われた展示『キュッパのびじゅつかん』の元となった絵本『キュッパのはくぶつかん』(福音館書店)、『カンヴァスの向こう側』(評論社)など。埼玉県在住。

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